笑顔でつながる家族の輪(fam[ファム] 2022年夏号)

福島さん夫妻
家族の輪

未来に残したいのは、
どんな環境でも自然の力で育つ作物。
強い種と綺麗な土を次世代につなげたい!

無農薬・無肥料・自家採種。それまでの生き方から
転身した夫婦は、自然農を広めるべく取り組んでいる。
自然の理を愛する2人の生き方と子育てについて聞いた。

「美味しい野菜」は副産物。 主軸は強い種作り

─自然農の特徴は?
パパ 私達が実践しているのは、岡田茂吉氏が提唱した「動物の糞や化学肥料を使わず土を綺麗にすることで、土本来の力と自然の恵みのみで育てる」シンプルな農法です。一つひとつの作物の成長をより身近で感じたく、できるだけ手作業で行っていて、自家採取した種からの栽培を重視しています。
ママ 種は記憶を持っていて、自分の力で育った種はその後自然の力で育つようになるんです。和歌山で譲ってもらった種も始めは寒さで全然育たず、何年か育てるうちに岩手の気候に馴染んできました。大雨や干ばつも経験するたび、対応できるようになっていきます。
パパ 毎日の作業は重労働だけど、この種を次世代につなげていければと。そして、なによりも採れた野菜はワイルドで味が濃い。焼いて塩をかけるだけで料理のメインになりうる美味しさなんです。野菜の美味しさから、私達の思いが皆さんに伝わりこの農法を知ってもらえたらと思っています。

好きなことをやりきったことが今の充足感につながっている

―自然農を始めたきっかけは?
パパ 独身時代は季節労働者で、お金が貯まれば旅行に行く気ままな生活をしていました。ただ、この生活で家庭を持つのは難しい。今後を思案していた時、手に取ったのが農哲学者・福岡正信氏の本。思想に感銘を受け、農業の選択肢も考えていた時に妻と出会いました。
ママ 私は長くアパレル店の店長をしていました。閉店後は飲みに行く日々。充実していたし仕事も好きでしたが少し疲れも感じていた頃でした。
パパ 就農したのは結婚後で、2人で和歌山へ研修に。妻と義両親の理解がなければ今の生活はないですね。
ママ うちの両親は昔からやりたいようにさせてくれて。どんな時でも信頼してもらえたから、夫への理解も自然な流れでした。私の性格もありますが、不安はなかったです。20年以上携わった接客業も愛着がありましたが、今の仕事がすごく合っていると感じます。

―子どもが生まれてから生活はどう変化した?
パパ 結婚・就農と同時進行で目まぐるしい日々の中、出産後はさらに生活が一変しました。
ママ 母乳が出づらく授乳に苦労しました。でも夫が2時間おきに一緒に起きてくれて。布おむつも毎日手洗いするなど、子育てのベクトルが一緒だから辛いと感じたことはないです。それに40歳で出産したのでただただ可愛い。若い時に産んでいたら私の性格上余裕がなくて大変だったと思うので、ネガティブなイメージの高齢出産ですが、良い面もあると実感しています。若い頃に経験した辛かったことと比べて「私ならできる!」と言い聞かせ乗り切りました (笑)。
パパ 冬以外はほぼ休みがなく、祖父母に息子を預けることが多いです。息子には我慢させているので、休みの日は思いっきりはっちゃける! 昔とは考え方がだいぶ変わりましたが、子どもとの今の生活は最高です。
ママ 何ごとも自然に任せたやり方がしっくりくる。今後はこの土地に馴染んだ在来種を中心に育てていきたいです。

野菜の対面販売

販売は思いが伝わる対面方式

一人ひとりのお客さんと会話しながら、野菜の説明をするのが楽しい瞬間。
〈販売場所〉こもれびマルシェ【花巻】、ファーマーズマーケット/オガール【紫波】、リタ【盛岡】のイベント

家族のプロフィール

パパ:福島吉隆(よしたか)さん•40歳・神奈川県出身
ママ:詠子(えいこ)さん・46歳・盛岡市出身・共に専業農家、長男6歳の3人家族。

吉隆さんは専門学校卒業後、日本各地の農家や山小屋に住み込みで働く。詠子さんは専門学校卒業後、盛岡の百貨店勤務を経て東京の大手百貨店に勤務。共通の友人を介して吉隆さんに出会い2014年に結婚。夫婦で愛媛のみかん農家の手伝いなどを経て和歌山に移り、自然農の研修を行う。2015年に長男が誕生、岩手へ。2017年に紫波で「うたか自然農園」を開業。2019年に花巻に移り住む。