秋を感じる絵本・児童書

秋を感じる絵本・児童書

本を選んでくれたのは

フキデチョウ文庫/沼田雅充さん

「フキデチョウ文庫は、介護施設と図書室、コミュニティスペースがひとつになったような場所です。寄付や持ち寄りで集まった本がたくさんあり、いつでも自由に読めます。散歩ついでに、ふらりと立ち寄ってみてください。意外な本との出合いがあるかもしれません。」


おやすみなさい ダース・ヴェイダー

おやすみなさい ダース・ヴェイダー

作:ジェフリー・ブラウン
訳:とみながあきこ
出版社:辰巳出版
価格:1,320円

秋の夜長を楽しみたい子どもたちと早く寝かせたい親たちの戦いを散りばめつつ、あのキャラクター達の日常を描いたスピンオフ作品の先駆け的存在。世界では戦争や侵略が絶えることなく起こっていますが、そこにも必ず平和な日常があるはずで、まさに平和の大切さを感じる一冊です。ちなみに、翌年に発表された『ダース・ヴェイダーと仲間たち』の最後のコマで、小さなルーク、レイア、ハン・ソロ、チューイが惑星タトゥイーンに沈む2つの太陽を眺めながら「すっごく、いい予感がしてきたぞ」とつぶやくシーンがとても秋っぽくて気に入っています。

ふくろうくん

ふくろうくん

作:アーノルド・ローベル
訳:三木 卓
出版社:文化出版局
価格:1,045円

“がまくんとかえるくん”で有名なアーノルド・ローベルによる児童書。本書では、人と人が出会い、親しい関係になるまでをふくろうと月に例えて描く「おつきさま」を含めて5つの話を収録。おつきさまでは「こんなことあったよなぁ」と思いださせてくれるエピソードを軸に話が進み、何も言わないけどいつも見守ってくれる人がいる、それがしあわせを感じる瞬間なのだと教えてくれます。のちに娘・エイドリアンはインタビューの中で父親がゲイだったことに触れており、ローベルが紡ぐ話に流れる孤独感はそこに原点があり、「単なる友情を超えた愛についての物語だったのだ!」と最近知ることになりました。秋の夜長に、ローベルの作品をもう一度読み直してみるのもいいですよ。

どんぐりと山ねこ

どんぐりと山ねこ

作:宮沢賢治
絵:高畠純
出版社:岩崎書店
価格:1,100円

山ねこからおかしなハガキを受け取った一郎少年が行先もよくわからないまま、栗やら、きのこやら、リスやら秋を感じさせる案内人に言われるがままに、山中を行ったり来たり。賢治の理想としたイーハトーブの秋の風景が広がり、賢治の作品に一貫して吹いている風(ここでは特に爽やかな秋風)が感じられます。でも、その爽やさとは裏腹に、この作品に流れるテーマはかなり困難で複雑なものだと思います。というのも、この作品が収録された『注文の多い料理店(1924年刊行)』の広告文を賢治は「必ず比較をされなければならないいまの学童たちの内奥からの反響です」と書いています。賢治が伝えたかった、選ぶ行為自体が格差や階級、差別を生むことに繋がるのではないかという恐れ。また、社会にさらされることで失われる純粋性や透明性。それは、一郎少年のもとに山ねこからの招待状が二度と届くことがなかったという結末にも感じられます。私たちの生活を委ねる代表を私たちなりの基準で選んでいるのに、こんなはずじゃなかったというニュースで溢れている現代。賢治が生きていたとしたら、今をどう見るのでしょうか。